「うちの社員から、ハラスメントの相談が来てしまった…」
こういった事態はもはや、どの企業においても他人事ではありません。特に、経営者や人事担当者の皆様にとって、この第一報は心臓が縮む思いがする瞬間ではないでしょうか。
しかし、本当に恐ろしいのは、相談が来ることそのものではありません。
本当に恐ろしいのは、その相談を受けた後の「最初の5分、最初の一言」を間違えてしまうことです。
良かれと思ってかけた言葉、つい言ってしまった一言が、取り返しのつかない事態を招きます。事態を穏便に収めようとした結果、問題がこじれにこじれ、訴訟に発展し、多額の損害賠償を命じられる。優秀な社員が次々と辞めていき、社内の雰囲気は最悪になる。
そして、会社の評判は地に落ちる――
これは決して大げさな話ではありません。
本日は、会社と社員の未来を守るため、ハラスメント相談を受けた際に絶対に踏んではいけない「3つの地雷」と、その回避策について、具体的にお話しします。
ハラスメント相談が来たとき最初にやってはいけない3つの対応

1.はじめに:その一言が命取り。相談対応の「最初の5分」で会社の未来は決まる
ハラスメント相談は、会社にとっての「緊急事態宣言」です。相談者は、多大な勇気を振り絞り、藁にもすがる思いであなたの前に座っています。その心は、非常にデリケートで傷つきやすい状態にあります。
このとき、対応者が発する最初の一言、見せる最初の態度は、相談者の心に深く刻み込まれます。ここで信頼関係を築けるかどうかが、その後の全てを決定づけると言っても過言ではありません。
これからお話しする3つのNG対応は、いずれも「良かれと思って」「面倒なことを避けたいために」やってしまいがちな、しかし致命的な対応です。一つずつ、詳しく見ていきましょう。
2.【NG対応1】「放置・先延ばし」という名の“静かなる二次加害”
勇気を振り絞った相談者に対し、最も残酷な仕打ちが「何もしないこと」です。
やってはいけない言動の例
- 「今、ちょっと立て込んでいるから、また後にしてくれないか」
- 「もう少し様子を見て、それでも続くようならまた相談して」
- 「うーん、それはあなたの気にしすぎ、思い過ごしじゃないかな?」
- (話を聞いた後、何の連絡もなく、時間が過ぎていく)
なぜダメなのか?
これらの対応は、相談者の勇気を踏みにじり、「この会社は自分の痛みを理解してくれない」「相談した自分が馬鹿だった」という深い絶望感と不信感を植え付けます。これは、加害者による一次加害に続き、会社が追い打ちをかける「二次加害」に他なりません。
法的に見ても、企業には従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります。相談を真摯に受け止めず放置することは、この義務に明確に違反する行為です。
もたらす法的・経営リスク
相談を放置された従業員は、メンタルヘルス不調に陥り、長期休職や退職に追い込まれる可能性があります。そうなれば、会社は安全配慮義務違反を理由に、多額の損害賠償を請求されるリスクを負います。また、時間が経てば経つほど、関係者の記憶は曖昧になり、メール等の証拠も散逸し、事実確認はどんどん困難になっていきます。
最初にやるべき対応:「まず、受け止める」
相談者が話し始めたら、まず**「最後まで口を挟まずに聴く」**ことに徹してください。そして、話が終わったら、以下の3点を伝えます。
2.共感:「それは辛かったですね。よく今まで我慢しましたね」
3.約束:「会社として、この問題を決して放置しません。きちんと調査し、誠実に対応することを約束します」
この時点で、事実かどうかを判断したり、意見を言ったりする必要は一切ありません。まずは相談者の心に寄り添い、味方であることを明確に示す。これが全てのスタートです。
3.【NG対応2】「当事者同士での解決」という名の“無責任な責任放棄”
問題を大きくしたくない、波風を立てたくないという気持ちから、安易に当事者間での解決を促してしまうケースがあります。これもまた、絶対にやってはいけない対応です。
やってはいけない言動の例
- 「内々に済ませたいから、悪いけど二人で一度話し合ってみてくれないか」
- 「まあまあ、お互い様ということもあるからさ。大目に見てあげてよ」
- 「分かった。私が本人に『少しやりすぎだぞ』ってガツンと注意しておくから、それで一旦、手打ちにしてくれないか」
なぜダメなのか?
ハラスメントは、上司と部下など、力関係の非対称性がある中で発生することがほとんどです。そんな二人に「話し合え」というのは、「弱い方が我慢しろ」と言っているのと同じです。公正な解決など到底望めません。
また、ハラスメント問題の調査と適切な措置を講じることは、会社に課された法的な義務です。それを放棄し、個人間の問題にすり替えることは、会社としての責任を放棄したと見なされても仕方ありません。
もたらす法的・経営リスク
この対応が最も恐ろしいのは、報復のリスクです。加害者とされる人物が「あいつが会社に告げ口したな」と逆恨みし、相談者への嫌がらせがさらにエスカレートする危険性が非常に高いのです。結果として被害はさらに深刻化し、会社の対応のまずさが加わったことで、訴訟になった際の賠償額はより高額になる可能性があります。
最初にやるべき対応:「会社が主体となることを宣言する」
当事者同士で解決させるのではなく、「これはあなた個人の問題ではなく、会社の職場環境の問題です」というスタンスを明確に示してください。
その上で、「今後の対応は、すべて会社が間に入って進めます。あなたが直接、相手と話す必要はありません」と伝え、相談者を保護する姿勢を打ち出します。必要であれば、相談者の安全を確保するために、一時的に席を離したり、別室で業務を行わせたりするなどの緊急措置を検討することも重要です。
4.【NG対応3】「犯人探しと不用意な聴取」という名の“情報漏洩と冤罪リスク”
正義感や、早く解決したいという焦りから、すぐに事実の白黒をつけようと行動してしまう。この勇み足が、事態を最悪の混乱に陥れます。
やってはいけない言動の例
- 相談を受けた直後に、加害者とされる人物を別室に呼び出し、「〇〇さんからパワハラの訴えがあったんだけど、どういうことだ!」と詰問する。
- 「ちょっと確認したいんだけど…」と、周囲の同僚に「〇〇さん、最近元気ないけど、△△さん(加害者とされる人物)から何か言われてるの知らない?」などと聞き回る。
- 関係者を集めて「一体誰が、何をしたんだ?」と犯人探しのようなことを始める。
なぜダメなのか?
これらの行為は、相談者のプライバシーを著しく侵害します。「ハラスメント相談をした」という極めてデリケートな情報が、本人の許可なく社内に広まってしまうからです。
また、調査は中立・公正に行われるべきですが、このような拙速な動きは、関係者に先入観を与え、正確な事実確認を不可能にします。万が一、ハラスメントの事実がなかった場合、今度は加害者とされた人物の名誉を毀損したとして、会社が新たな紛争を抱えることになります(冤罪リスク)。
もたらす法的・経営リスク
情報が漏れれば、関係者間で口裏合わせが行われたり、証拠となるメールが削除されたりする恐れがあります。相談者は「秘密をばらされた」と感じ、会社への信頼を完全に失い、社内で孤立してしまうでしょう。噂が噂を呼び、新たなハラスメント(いじめ)が発生するなど、職場環境は完全に崩壊します。
最初にやるべき対応:「守秘義務の徹底と、慎重な調査計画」
相談者にはまず、「今日話してくれた内容は、あなたの許可なく絶対に他人には漏らしません。対応する担当者も、必要最小限の人数に絞ります」と、守秘義務の徹底を約束してください。
そして、すぐに誰かに話を聞きに行くのではなく、まずは相談内容を整理し、「誰に」「何を」「どのような順番で」話を聞くか、慎重に調査の計画を立てます。この段階で判断に迷うのであれば、内部だけで進めずに専門家に相談するのが賢明です。
5.まとめ:ハラスメント相談は、職場を健全化する「アラート」であり「成長のチャンス」である
最後に、3つのNG対応をもう一度振り返りましょう。
- 放置・先延ばし
→ 【対応】まず動く(受け止める) - 当事者同士での解決
→ 【対応】会社がやる(主体となる) - 犯人探しと不用意な聴取
→ 【対応】秘密は守る(慎重に計画する)
ハラスメント相談が来るということは、決して恥ずべきことやネガティブなことではありません。むしろそれは、水面下で進行していた組織の問題点を、一人の従業員が勇気をもって教えてくれた「貴重なアラート」なのです。
このアラートを正しく受信し、適切に対応することができれば、それは職場環境を見直し、より多くの従業員が安心して働ける健全な組織へと生まれ変わるための、またとない「成長のチャンス」となります。
初期対応は、スピードと慎重さという、相反する要素が同時に求められる極めて難しい舵取りです。少しでも「どう対応すべきか」と迷ったら、決して一人で、あるいは社内だけで抱え込まないでください。
問題が深刻化し、取り返しのつかない事態に陥る前に、速やかに私たちのような外部の専門家にご相談いただくことが、結果的に会社と従業員の双方を守るための、最も確実で賢明な選択です。
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