はじめに - 引越しバイトが教えてくれたこと -
「人は座学や人からのアドバイスよりも経験から学ぶことが多い」
これは、先日ある企業で実施したOJT指導者研修の場で私がお伝えさせて頂いた言葉です。
座学だけでは人は育たず、実体験のなかで得られる“うまくいった成功体験”や“失敗から得た気づき”こそが、本人の血肉となる、忘れない一番の教訓になるという意味です。
その研修の最後に、受講されていた企業の社長が、自らの学生時代の引越しアルバイトの話をしてくださいました。
そのエピソードが、人材育成の一つの核心を突いていると思いました。
引越しバイトが教えてくれた「リーダーの力」
その社長は、大学生のころに引越しのアルバイトをしていたそうです。
毎回、社員1人と学生アルバイト数名で構成されるチームを組み、現場に向かう。
そこで気づいたのが、「リーダーの違いが、チームのパフォーマンスに如実に表れる」ということでした。
あるリーダーは、作業前から「ミスするなよ!」とピリピリした空気を作り、少しのミスでも感情的に怒鳴る。すると、周囲は萎縮し、緊張からくるミスが増え、作業も遅れる。
一方、別のリーダーは、普段の雑談や準備中の雰囲気づくりを大切にし、ミスがあっても冷静に対処。結果、チームはリラックスして働き、作業もスムーズに進んだといいます。
この体験が、その社長の「部下との接し方」や「人の育て方」の根っこにあるそうです。
実はこのような経験談には、人材育成において非常に大切なヒントが詰まっています。
それを”科学的な視点”で説明してくれるのが、「ABA(応用行動分析学)」という理論です。
ABA(応用行動分析)とは?
ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析学)は、アメリカの心理学者B・F・スキナーによって体系化された「行動の科学」です。
「人や動物の行動は、その行動の前後の環境によって変化する」という考え方に基づいています。
たとえば部下が報連相をしない、主体的に動かない、叱ると黙り込んでしまう...
こうした問題行動も、「本人の意識が低い」のではなく、その行動を引き起こす“環境”が影響しているというのがABAの基本的なスタンスです。
行動の「前」と「後」を読み解く「ABC分析」
ABAの中心的な考え方の一つに「ABC分析」というものがあります。
人は、「Aの条件下でBという行動を起こし、Cの結果を得る」ことで、その行動を「またやるか/やらないか」を無意識に判断しているのです。
ここで先ほどの引越しバイトの例を使ってABC分析をしてみましょう。
B:行動(Behavior) = 実際に起こした行動
C:結果(Consequence) = 行動の直後に起きた結果
A:リーダーが作業前から「ミスするな」と圧をかける
B:引っ越し作業をする(スタッフが緊張しながら作業)
C:ミス → 怒られる → さらに萎縮し次回もミスが起きる
A:リーダーが会話を交えながら明るく準備
B:引っ越し作業をする(スタッフがリラックスして作業に集中)
C:作業がスムーズに進む、感謝される、ミスが減る
部下の行動を左右する「先行条件」と「結果」という環境づくり
ABC分析をより具体的に活かすために、育成を行う上司は、行動の前後に位置付けされる「先行条件」と「行動の結果」を環境作りと思って、意識的に自身の振る舞いや行動を選択していくことが重要になります。
先行条件と結果については、以下の4つに分類するのがABAの考え方になります。
2. 嫌子消失による強化(不安がなくなる、責任から解放)
3. 嫌子出現による弱化(叱責される、責められる)
4. 好子消失による弱化(無視される、達成感が得られない)
※「好子」とは、行動の前後にある刺激や結果が本人にとって良いもの、 「嫌子」とは、行動の前後にある刺激や結果が本人にとって悪いものを指します。
※「強化」とは、その行動が繰り返されること。 「弱化」とはその行動が繰り返されなくなることを指します。
上記の分類を先程の例に当てはめて、どのような「先行条件」が良いか考えると
「ミスしても大丈夫。責任は自分が取る」と上司が声掛けしておく
( 嫌子消失による強化)
ミスしないためのマニュアルや手順書を作って事前に説明して不安解消
(嫌子消失による強化)
緊張しないように、リラックスした雰囲気で仕事ができるように声掛けや音楽をかけながらする
ということになるでしょうし、
行動の後の「結果」については、
仕事の終わりに労いや感謝の言葉を伝える (好子出現による強化)
という対応を上司が取ることで、リラックスした状態での作業が強化されます。
つまり、「行動の前と後に作り出される環境によって“どのような行動が増え、どのような行動が減るのか”を左右している」のです。
これを理解した上で、上司がどんな声をかけ、どんなタイミングでフィードバックするかを設計するだけで、部下の行動はガラリと変わります。
「経験から学ばせる」とは、“環境を設計する”こと
冒頭のお話のように、「自分で体験し、気づき、行動が変わる」ことが育成の理想です。ただし、それを「放任する」ことと勘違いしてはいけません。
経験から学ばせるには、上司が「行動のきっかけ」と「結果」をデザインすることが大切です。
人材育成において、「育つ社員/育たない社員」の違いは、能力や意識の差だけではありません。
“どんな上司に育てられたか”という環境的な要因も大きく影響します。
だからこそ、経営者やマネージャーに求められるのは、「どう伝えるか」や「どう叱るか」よりも、どう“環境”を整え、“行動の連鎖”を設計するかという視点です。
ABAという科学的アプローチは、経験と感覚に頼っていたOJTや人材育成を、再現可能なマネジメント手法へと進化させてくれます。
「なぜ部下が動かないのか?」と悩んだときは、一度その行動の前後に目を向けてみてください。
解決のヒントは、必ず“環境”の中にあるはずです。
プロセスコアでは、今回のコラムでお伝えした ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析学)を元にした研修も行っており、様々な事例やワークを用いて管理職を対象とした研修を実施しております。
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